Research

研究の出発点

中小企業の存続と経営移行の現場には、既存の制度や理論では十分に記述されていない過程がある。

上場企業のM&A研究は充実している。だが、その前提——公開市場、分散株主、専門経営者、情報開示義務——は、法人の大多数には当てはまらない。中小企業研究のなかでも、特殊事例や比較的規模の大きい企業が研究の中心であり、大多数の中小企業の現実は記述の外に置かれてきた。

ISMASの研究は、20年以上にわたる実務の蓄積から出発する。現場で繰り返し直面してきた問いを、研究の言葉で記述し、新たな概念と理論を提示する。制度を批判するためではなく、制度の趣旨に照らして運用を改善するために。

研究の主要局面

ISMASは、中小企業M&Aと事業承継を取引成立の一点ではなく、企業の理解から政策評価に至る全体過程として捉える。現在、以下の主要局面において、概念と理論の構築を進めている。

判断と引受け

中小企業M&Aにおける買い手の判断は、財務条件だけで完結しない。対象企業にどう関与するか、何を引き受けるか、買収後に自ら何を担うかを見込みながら、意思決定が行われている。同時に、事業を託す側は、何を残し、何を委ね、どの時点で手を離すかを判断している。これらの判断構造を、投資判断とは異なる枠組みで記述する。

関連する理論的枠組み:CGTE(了解可能性ゲート理論)

制度と支援の到達と不達

制度は、事業承継の支援手順を定め、関与すべき機関と役割を示している。しかし、実際の取引過程では、制度が想定する順序と現場で必要な判断の順序が一致しないことがある。制度の趣旨そのものが誤っているとは限らない。問題は、その趣旨が現場に届くまでの過程で、何が変形し、何が抜け落ちるかである。

FAや仲介業者の実践も、この局面に深く関わる。制度上は助言者または媒介者として位置づけられているが、実態としては、探索、選別、比較可能性の形成、条件調整、信頼の媒介、意思決定の前提形成に深く関与している。制度上の位置づけ、業界内部の自己説明、実際の職業的実践のあいだにずれがある。

関連する理論的枠組み:制度翻訳理論、CGTE(周辺領域として)

移行と帰結

法的な所有権の移転は一日で終わる。しかし、経営の移行はそこから始まる。中小企業M&Aでは、買い手・売り手・従業員・取引先のあいだで、権限、期待、依拠先が揺れたまま推移する期間がある。この過程とその帰結を記述する。

同時に、中小企業M&A政策は、件数や成立実績を中心に成果が把握されてきた。不成立に終わった交渉、長期化する過程、買収後の帰結を含めた政策評価の枠組みを検討する。

関連する理論的枠組み:〈間〉理論、帰結選択性、評価空白理論

これらは現在の主要局面であり、ISMASの研究の射程はこれに限定されない。